2020年7月20日、SNSのメッセージ機能を通じて、民俗学の研究会で一度会ったきりの方から僕あてに「ある方が入会金を負担するから民俗芸能学会に入らないか(「ある方」の個人名はあげていなかった)」というメッセージが届いた。僕は、すでに民俗芸能学会の会員だったし、なおかつ2017年度から理事として運営に関わってきた。学会によっては、学生会員の会費減免キャンペーンをしていることもあるが、民俗芸能学会では特にそういう措置はとっていなかった。秋に理事選挙を控えていることもあり、選挙の直前に第三者が会費を負担して、新入会員を入れるのは、一般的に「買収」と呼ばれる行為ではないか。僕が会員であること、学会として会費の減免措置は行っていないこと、選挙の直前にそういう行為をされるのは困るということを返信して、この件はなかったことにした。
2020年9月5日に民俗芸能学会の理事会が行われ、2020年度に入ってから大量に新しい会員が入ったことが報告され、当時、代表理事代行であった茂木栄さんから「(推薦人として自分が)努力した」という発言があった。民俗芸能学会に入会するには、一名以上の会員の推薦、会費の納入、理事会の承認が必要である。しかし、理事会による審査は実際には行われておらず、承認の確認も一切省略されていた。このとき、7月のやりとりを思い出したが、比較的スムーズに進んでいた会議が長引くことを避けるため、発言しなかった。会議終了後、日頃から親しくしている他の理事にメッセージの件について相談した。
理事会の直後に理事選挙が公示されたが、僕に勧誘メッセージを送った方が不利益を被ることがないように、すぐには理事会全体に公表しなかった。2020年9月21日に事務局から理事会のメーリングリストに送られてきた議事録に返信のかたちで「不適切な勧誘が行われたのではないか」という懸念を表明した。翌22日に事務局で会計を担当している理事から、同日に同一の金融機関から複数人の会費が振り込まれたという報告があった。この時点で選挙違反が強く疑われ、複数の理事から調査を求める意見が出た。茂木栄さんから「自分が調査するから、やりとりの証拠を提出せよ」という発言があったが、僕はそれを拒否し、第三者による調査を要求した。複数の理事から臨時理事会を求める意見が表明されるなか、茂木さんは「メッセージは舘野の捏造」と断定し、要求に応えなかった。
2020年10月6日に理事選挙の開票が行われ、新入会員を含む、これまで学会の活動に関わってこなかった(大会、例会に参加していない、あるいは紀要に原稿を書いていない)方が上位で当選したことが明らかになった。民俗芸能学会では、選挙の上位10名が理事になり、その他に、会の運営のため、当選者がさらに10名程度の会員を理事に選ぶという仕組みになっている。選挙の後に行なわれた当選者の話し合いで、これまで運営に積極的に関わってきた理事を外す決定がなされ、僕も今年度限りということになった。
民俗芸能学会では代表理事が理事会を要求することになっている。選挙をまたいで、理事21名中10名の連名で臨時理事会の開催を要求したが、三名の代表理事代行はそれに応じなかった。理事の意見を集約するために、2020年11月22日に「理事の会」を開催し、理事13名の承認を経て、代表理事代行を解任し、俵木悟さんを代表理事に選出することを決定した。解任された代表理事代行三名のうち、茂木栄さんと山路興造さんはこの決定を不服として、2020年12月31日に、俵木さんと事務局担当理事二名に対して、「法的根拠」の説明を求める通知を、弁護士を通じて送った。「通知」というと何ということはないが、要するに「訴えるぞ」という脅迫である。受け取った方によると届いたのはお正月とのこと。本人だけでなく、ご家族にも不安を与えたことだろう。
新年度からの民俗芸能学会は山路興造さんが代表理事になり、茂木栄さんもひきつづき理事をつとめるそうだ。僕は、仲間に対して、「捏造」と決めつけたり、脅迫したりする人間が研究組織の代表にふさわしいとは思えない。
ところで、茂木さんと山路さんは、僕やそれ以外の理事が新会員の入会を拒んだという話にしたいようだが、その事実はない。入会を希望する方なら誰でも歓迎で、選挙の直前に本人以外が会費を払って入会する(させる)という手続きを問題視してきた。あらぬ疑いを避けるためには、事前に理事会に説明する、入会手続きを選挙の後にするなど、いくらでもやり方はあったはずだ。それをしなかった、後から釈明もしなかったということは、選挙のために入会させる「加入戦術」であったと見られても仕方ないだろう。