2019年5月5日日曜日

民俗芸能学会第174回研究例会

民俗芸能学会第174回研究例会
「由來八幡宮姫之飯神事の検討」
発表者:小島美子、上西律子、茂木栄
司会:舘野太朗
日時:令和元年5月25日(土)14:00~
場所:早稲田大学演劇博物館レクチャールーム(6号館3階)
※参加費200円(会員でない方も参加できます)
要旨:
 由來八幡宮は島根県出雲地方の最西南端、中国山地にさしかかった所の飯南町頓原にあり、『出雲國風土記』には田倍社の名で記されている。毎年11月7日に姫之飯神事という祭が行なわれる。拝殿の中に設けられた舞殿の前面に、小さな俵2個を1組にしたものが3組並べられ、その上に白幣をたて、根つきの稲を4杷ずつ置く。禰宜が巫女の姿で登場し、再拝拍手した後、長い担(にな)い竹をとって四方に舞う。担い竹の両側に小俵の上の12杷の稲束をかけ、両手で持って舞う。正面の案(机)の下に置いた火吹竹などを持って舞い、案の上に置いてあった玄米を蒸したり餅をつくなどの仕ぐさをし、中から餅をとり出して正面や前面の小俵の上に置く。小俵の上の幣を取り、両手にもって舞って終わる。
 この前に御旅所往復などのはなやかな神幸行列などもあり、翌日には次の頭(とう)屋(や)を決める頭渡し神事が行なわれる。
 この姫之飯神事より早く10月の中頃に、その年の頭屋の田で稲刈を行ない、神事を行なった後、刈った稲を乾燥し脱穀し、それを姫之飯神事の前面に置いた3組の小俵に詰めておく。ただ12杷の稲だけは、担い竹にかけるために残し、他は神饌に充てる。
 さらにその前に注連おろしという儀式があり、田に1間四方の四隅に笹竹を立て、その正面に案を置きその上に御霊代宮という小さな宮を置いて神事を行なう。この神事では降神はするが、昇神はやらない。つまりこの小宮は稲霊を祀っているのである。
 また姫之飯神事で重要なのは、古くから伝えられてきた神饌で、玄御供(玄米の小豆飯)、里芋、ヤグサ餅(蚕に似せて作った餅)の3種を必ず一の膳として供えることである。これらは水田稲作が行なわれる前の稲作以前のものを大切に祭りつづけているということである。それをつづけられたのは、一つは中央から遠く圧力がかかり難かったということが考えられるが、もう一つはそれを支える頭屋制がしっかりしていたことであろう。
 この地の米は大国主命によって広められたと伝承されている。蚕もあり、そして里芋は南方に起源をもつ。この神事は複数の文化の複合の証左として考えられる。
「姫之飯神事」の本義を稲、儀礼、音楽、祭具類から検討したい。


0 件のコメント: