2015年1月17日土曜日

市川女優座制作『阿波の鳴門巡礼歌』

早稲田大学演劇博物館所蔵の市川少女歌舞伎の映像について。

歌舞伎劇シリーズ
市川女優座制作(市川少女歌舞伎改メ)
阿波の鳴門巡礼歌

製作 御荘金吾 中村大四郎
脚本 御荘金吾
演出 市川升十郎 河野秋和
撮影 前田実
録音 安恵重遠
編集 河野秋和
照明 永沢和男
美術 大阪舞台製作所
義太夫 竹本文春太夫
三味線 鶴沢新二
お囃子 市川女優座音調部
衣装 松竹衣装K.K
小道具 藤浪小道具K.K

阿波十郎兵ヱ 市川美寿次
その妻お弓 市川梅香
その娘お鶴 市川いつ子
赤間大膳 市川福升
長屋の女お源 市川梅升
長屋の女お六 市川小牡丹
岡倉小十郎 市川寿々女
茶坊主 市川峰子
丁稚長松 市川恵美子
茶屋娘お光 市川恵理子

16mmフィルムからHi8に変換。白黒。27分。
制作年は不明だが、1960年3月に新宿第一劇場で「市川少女歌舞伎改め市川女優座披露興行」をしていることから、それ以降であると考えられる。
作品は、単なる舞台の撮影ではなく、カメラが切り替わったり、十郎兵衛の回想シーンが挿入されたりする。役者の顔がかなりアップになる。客席や花道がいっさい写らないことから、スタジオで収録されたものではないか。映画に近いつくりであるが、役者の拵えや演技はかぶきそのままである。
いかなる目的で制作され、どうして演劇博物館に収蔵されることになったのかは不明であるが、市川少女歌舞伎の演技を知る手がかりとして重要であろう。

2015年1月7日水曜日

『ひばりの三役 競艶雪之丞変化』の劇中劇

市川少女歌舞伎が劇中劇で出演した美空ひばり版『雪之丞変化』について。

『ひばりの三役 競艶雪之丞変化』と『ひばりの三役 続競艶雪之丞変化』の前後編。
1957年制作、新東宝、渡辺邦男監督。
僕が見たのは、クラリオンソフト新東宝名画シリーズのVHS(ソフトのタイトルは『美空ひばりの競艶雪之丞変化』)。

ひばりは雪之丞、闇太郎、雪之丞母お園の三役。
雪之丞の師匠、菊之丞に市川門三郎が出ている。門三郎は翌1958年に大歌舞伎に復帰するから、このころは「かたばみ座」に出ていたのだろうか。時期は少しずれるが、ひばりと門三郎には、横浜の杉田劇場に出演していたという共通点がある。杉田劇場でもそうだったが、門三郎は、自分の一座を率いて芝居をしていたから、菊之丞のキャラクターと重なっておもしろい。

市川少女歌舞伎は「劇中劇 市川少女歌舞伎劇団」として出演。クレジットには「美寿次、寿々女、姫升、福升、三福、梅升、他」とそれぞれの名前も出ている。劇中劇以外の登場シーンはなし。

劇中劇の一覧とひばりの役所は以下の通り(いずれも推測)。
【前編】
口上(女方の拵え)
戻橋(小百合)
浜松屋(弁天)
落人(お軽)

【後編】
将門(滝夜叉姫)
廿四孝奥庭(八重垣姫)
河庄(小春)
おまつり?(女伊達)

ひばりの雪之丞を見せるためなのか、市川少女歌舞伎の座員にたっぷり見せ場があるわけではない。
それでも、前編では『浜松屋』の南郷の科白が聞けるし、後編では『おまつり(のような出し物)』でトンボを切るところが見られる。大劇場に出演していた頃の市川少女歌舞伎を見られるという意味では貴重だろう(本作の他には演劇博物館が『傾城阿波の鳴門』の映像を持っている)。
本作では、雪之丞が女であることを隠しているというのが趣向となっている。よって、雪之丞の相手役は男であると考えられる。が、それをいうのは野暮だろう。当時20歳のひばりと体格的、年齢的な釣り合いが取れていて、劇中劇の中でひばりが変に浮かないで見えた。